■小説/球形の季節

満足度:★★★★


恩田陸さんの小説をはじめて読みました。面白かった。

とある東北の片田舎に奇妙な噂が広がった。地歴研究会の高校学園メンバーは、

その噂の出所を探ろうと調査を進めるが、やがてその噂は現実になって、、、、。


ホラーとかオカルトとかSFとか言われそうだけど、個人的には青春小説でした。

加えて、ノスタルジックを感じながら読むことができました。


誰もが一度は抱える悩み、個人としての特別感を希求する人間特異の感情。特別こそ進化を生むんだ、という。人それぞれ、だがしかし普遍的で複雑な悩みと葛藤が、恩田陸さんが描く独特なオカルトちっくな世界の中で交錯していきます。


例えば、普通と特別という2つの世界があって、その2つの世界を分け隔てる川があった。普通の世界から特別な世界に飛ぶためには一体何が必要なのか、意志(感情)なのか信仰(理性)なのか。そして、そもそもそんな川を飛ぶ必要があるのか。


家族と一緒にいること、ご飯を食べること、学校に行けること、みんな幸せなのに、

それが、例え平凡で普通なことであっても、なんで皆、特別ばかりに目を向けてあくせくしているのだろう。普通と特別の違いって、一体なんなのだろう。


登場人物の一人である、みのりさんはこんなことを言っています。私は、このような精神、とても強くて、そして美しいな、と思いました。

自分自身を受け入れる強さ、そこを出発点にし、しっかりと自分を見つめ、前を向いていくその強さが。


不安、比較、焦燥が故に特別を希求した結果、自分から離れた世界に行くことは、

それは、人間の嵯峨なのかもしれないけれど、当たり前のことを幸せだと感じられる、

その感受性を失っては、歪んだ理性に押しつぶされ前が見えなくなることがあるでしょう。


感情をもとにした理性の構築は人生だと思うが、理性をもとにした感情の発露は非人間的だ。理性に絶対はないし、その構築過程は時として過酷だからこそ、何かにすがりたくなるが、自分自身の心が体験し決断する過程でつかみ取った理性や人間関係を大切にしていきたいですね。


球形の季節の、球形という部分の筆者の意図、それは誰もがもっている心の世界なのかもしれません。

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